炸裂する癇癪、飛び交う怒号、喧嘩腰のビジネス―1980年代後半から90年代初頭、IT業界のグローバルスタンダードをめぐって歴史的な戦いがあった。破綻したマイクロソフトとアスキーの共同戦線、撤退してゆくPCメーカーとソフトメーカー、次々現われる新規格……幾多の難局を乗りこえ、ウィンドウズは爆発的に普及した。ヨーロッパと日本で最前線にいた著者が、自身の体験とともにその理由を解き明かす。
流行爆発の三要因
2005年6月、スティーブ・ジョブズはスタンフォード大学の卒業式で、祝賀スピーチを行った。精魂込めたスピーチは自身の生い立ち、大学を中退してホームレス状態からアップル・コンピュータを起業し、CEOの座を追われて再び事業を立上げ、最終的にアップルに戻って病魔と闘った人生の総決算でもあった。
卒業生はスピーチに感動し、その内容はネット上のブログサイトに掲載された。そしてブログやメールを介してネット上に流れていった。シリコンバレーのジャーナリスト友達から届いた「ジョブスの卒業祝賀スピーチ」を読んで、私自身もいたく感動した。世間にはこの文章に共感する人が大勢いるにちがいないと考え、彼女に翻訳を提案、二週間後、私は彼女が丁寧に翻訳したスピーチを二万人のメルマガ読者へ配信した。
しばらくすると、反響のメールが殺到した。この文章はブログサイト(プラネットORG)に掲載され、毎日一万を超えるアクセスを集めていた。それを読んだブロガーがこぞってコメントし、トラックバックした。スピーチはブログの世界で話題になり、やがて大前研一氏の無料メルマガで取り上げられ、十万人のビジネス・エグゼクティブへ配信された。さらにはジャニーズ事務所のあるタレントがラジオ番組でこのスピーチを紹介したことで、10~20代の若者の間にまで浸透していった。
(中略)ジョブズのスピーチは、なぜこれほど流行したか。
2000年、高級誌「ニューヨーカー」のライター、マルコム・グラッドウェルは、爆発的流行のメカニズムを解明した『ティッピング・ポイント』を出版し、その中で大流行の法則として、三つのファクターを挙げた。それは、
[1] 少人数の法則 : 流行は少数の部外者によって始まる。
[2] スティッキネス要因 : 人をひきつける魅力的な要素がある。
[3] 環境の力 : その時、人を取り囲んでいる環境の重要性(条件が整っていること)。
だという。ティッピング・ポイントとは流行が始まる瞬間のことで、要因が揃い、口コミで伝染的に広がっていくプロセスは、WEB2.0系企業のマーケティング手段として、現在広く応用されている。
ジョブズのスピーチの場合、私、ブロガー、大前氏など、ほんの少数の人間が起爆剤になった。若者から中高年まで幅広い年代の共感を得られる内容で、ストーリー・テリングの巧みさとジョブズの強烈な個性ゆえに非常に説得力があり、読者の心をがっちり掴んだ。それがスティッキネス要因である。そして、この年はブログが大流行し、誰もが簡単に情報を伝達できるようになっていた。これが環境の力である。